恋愛の昭和史
『<男の恋>の文学史』の続編・近代編で、「国文学者」小谷野の現時点での代表作。「恋愛」は近代以前からあった!、発明品だなどと言ってやがる奴は無知だ、と序文で吼えていながら、本文は明治以降だけを扱っているとか、揚げ足とりたくなるところは例によってあるが、恋愛の言説史をやるならクズも含めて大衆メディアに大量につきあわなければいけないという当然の課題を正面突破するその姿勢には、頭が下がる。里見紝、石川達三の再評価はもちろん、『愛媛大学法学部論集』という媒体に載った大西貢の一連の里見論を「単行本化すべし」と主張するあたり、サラリーマン教員学者としては、プロモーターとしても敬意を表したい。
サントリー学芸賞は、三年待ってこちらに出したほうが据わりがよかったのでは、と思うのは、わたしが英語文学研究者であるせいだろうが、賞というものは本丸で貰うのが本人も気持ちがよいのじゃないだろうか。国文学の世界にはうるさいお偉方が多くて、そうもいかないのかしら、と邪推してみたり。一年後にこの本が賞でも貰い、邪推が邪推にすぎなかったことが証明されれば慶賀である。