記憶、羊、ディアスポラ

職場の研究プロジェクト「アジア、政治、アート」のワークショップ。参加者22名。フィリピンでアルマ・キントさんが中心で行っているセクシャル・アビューズ体験児の施設や、ムスリム・コミュニティでの共同制作というか、アート・セラピーの報告。
その後、呉夏枝(オ・ハジ)のシルクのドレスなどのインスタレーションの記録映像。祖母や母から受け継がれる「記憶」の意味が強調されているが、むしろ記憶が直接はつかめない抜け殻、屍骸のイメージが強い。琴仙姫(クム・ソニ)のヴィデオ・アート、毎回羊が出るのがなぜなのか、とか。以前銀座で一部だけ見たときはもっとパーソナルな呟きという印象があったが、全体を見ると全然違う。ハジさんのものと続けてみると、逆ベクトルで、生きている人間や羊をむしろ機械化していくような感じに映る。
ジェーン・ジン・カイセンのセミドキュメンタリーは、ジェーンさん自らがその一人である、北欧のコリアン系養子の実態を追うもの。北欧には2万5千人もの韓国からの養子がいるという。しかし韓国が経済的に発展するにつれ出される養子は減り、現在では数が少ない。彼らはもちろん韓国語はできないし、ほとんどあらゆる意味で白人社会に同化している。それ自体の文化をもたず、ほとんど一世代しかない「エスニック・コミュニティ」なのだ。ルーベンスの絵に現れるイタリアの「コリアン」なる人物を追い、コペンハーゲンのティヴォリ公園のオリエンタリズムが指摘され、と重層的だが、とくに何度も現れる、PC画面を覗き込んでたぶんヨーロッパ文化についてあれこれ(声は聞こえない)議論をしているスキンヘッドのアジア系男三人のシーンが印象的。これがあって「作品」になっている感じだ。
「イル・ラメリーノ」で食事。さらに「SCRATCH」。