On the Genesis of Species

George Jackson Mivart, On the Genesis of Species (Thommes 2001, 原著1871)。同時代のダーウィン批判でもっとも有名な本の一つ。思った以上に事例と図版が豊富で、アイアイとかフクロネズミジュゴン、ロブスターの骨格図など、とてもリアルでかわいい。マイヴァートはもともとハックスリーの弟子で、真剣なダーウィン主義者だった人で、護教的進化論ということばから連想するようなトンデモ性はほぼなし。議論としては、ダーウィニズムのランダム性(彼のことばでは indefinite mutation) を否定し、進化にある程度の定向性 "innate internal forces" (228) を見るもの。けっこうあちこちでスペンサーが引かれている。目や羽毛のような器官がどうやって現在のかたちにたどりついたのか、定向性を前提しなければ無理だ、というおなじみの議論の他、「なぜキリンが生存競争に有利なら他の動物も首を伸ばさなかったのか」などという問題設定が面白い。
ちょっと意外だったのは、別々の進化系統によって同型の器官が生まれる――犬とタスマニアオオカミとか、オーストラリアの有袋類がそれぞれべつな目に属する動物によく似ている――事例が、ダーウィンへの反証として使われていること。これって現代ではむしろ、自然選択説の有効事例として語られることが多いと思うんだが、マイヴァートにとっては、自然選択ではこれは一切説明できないのだった。