夏化粧

ゼミ、『ドラキュラからブンガク』4章、レポート返却。けっこうキビシイ。ペパカフェフォレストで1年生のレポート添削。

夏化粧 (文春文庫)

夏化粧 (文春文庫)

文庫化されました(単行本2002)。産婆のおばあにまじないをかけられて(このおばあ、とりあげた赤子の全員にいきあたりばったりのまじないをかけるのだ)母親以外には見えなくなった息子を取り戻すべく、わが子にかけた七つの願いと同じ種類の願いをかけた他人から、いちいち願いを奪い取っていく母親の物語。小味ではあるが、これまた『レキオス』同様、過去を巻き戻し、歴史を改変する欲望をめぐる話である。消えた我が子を奪い返すには、他人から願いをむしりとらねばならない。最初のうちはまだいいのだ。むしりとられる奴らも、しょうもないおっぱい星人高校生だったり、オリンピックで優勝するという願いより、「反則でも速く走る」という思いを優先させる奴だったりで、そこにあんまり悲劇が感じられない。しかし話が進むにつれ、願いを奪い取られる側の喪失感も、否応なしに浮かび上がる。過去を再構築しようとするヒロインは、他の人々の現在を奪い取るしかないからだ。こういう無理矢理な設定って、ある種の感情増幅系マンガ(旧くて恐縮ですが高河ゆんとか)を想い起させるのだが、細部のユーモアと疾走感、それにヒロインに対する語りの微妙な距離感が、無理矢理さを忘れさせてくれる。