夢+イギリス近現代女性史研究入門

最近夢と現実の区別があまりつかない。起きぬけに、そういえば以前妙なライヴを観たことがある知日家のウェールズの詩人がふらっと日本に来てるから、授業のゲストスピーカーでも頼もうか、予算残ってたっけ、しかしメールアドレスを知らないな、誰に聞けばいいんだろう……としばらくまじめに考えて、そのウェールズの詩人の存在そのものが夢だと気づく。いや、ライヴ(妙な日本語で歌っていた)の記憶が夢なのはまちがいないんだが、彼の存在はもしかして誰かから聞いた事実なのかも。それは現実であるとお気づきのかた、連絡ください。
CALL英語、健康診断。青土社O氏と打ち合わせ、ジュディス・バトラージェンダー論以外から見る、という特集を考えるが、レヴィナスショーレムの研究者にむりやりバトラーの未訳論文を読んでもらう、というかたちでないと成立しないだろう。特殊講義、マライア・エッジワース, Patronage、探偵小説と専門職表象。

イギリス近現代女性史研究入門

イギリス近現代女性史研究入門

ご恵贈ありがとうございました。計21人の書き手は、珍しいくらい年齢層が広くて、今井けい、水田珠枝といった方たちといちばん若い書き手では年が四回りくらい違うが、全体の姿勢・文体はストイックに統一されていて、むらがない。とくに19世紀なかばから20世紀前半にかけての労働、社会福祉、政治参加といった、女性の社会参加に関しては、統計情報や法の変遷といった基本情報がぎっしり詰め込まれていて、じつに助かる。3500円という値段、年表や基本的参考文献表の充実などから見ても、教科書として意図されているのだろう。ただ網羅的であるだけに各章が短めなので、読み物としてはややせわしない。むしろ教員が手元においておくと重宝する感じ。学生をインスパイアするよりは、基本情報を提示するための本なので、授業で使うなら、これと合わせて一次資料のアンソロジーを読むという使い方がベストじゃないかと思う。
個人的には、専門職家庭における家族経営的色彩の重要さを指摘する山口みどりの一節がちょっとはっとした。アルフレッド・マーシャルは、1877年にブリストル大学長になるが、そのとき妻のメアリも同大学で、英国初の女性経済学講師になる。しかしマーシャルは、妻の仕事は自分の職務を分け与えたものだと考え、彼女の報酬を自分の給与から差し引くよう主張したという。夫の職は夫婦二人の職であるという意識によって、牧師夫人の慈善や、著作家夫人の校正・清書といった仕事が当然のものとみなされていたわけだ。これと、松浦京子が論じている、労働者階級の「ファミリー・ウェイジ」の観念(一人前の男は妻を働かせなくても十分の収入を得るべきである)は、別の文脈でできあがったものだが、どこかで交差しないか気になる。