陽のあたる坂道

犬が初めて階段を下りる。ただし人間二人の補助付き。これが人間一人の補助でOKとなれば、現時点での人生の最大の心配事がなくなるわけだ。
TV『陽のあたる坂道』(田坂具隆、日活1958)。3時間20分という上映時間にめまいがする。裕次郎芦川いづみもぴったりの配役だが、これは前年の原作自体が映画化を前提として当て書きされているらしい。とにかく台詞がほとんど原作のままなのに驚く。人物心理を全部台詞で説明してしまう小説が、そのまま映画化されているわけだ。ただし自由が丘の坂を北原三枝が歩いていくオープニングや、山根寿子のアパートで町内の連中が都々逸を唄い踊るところとかは、視覚的に増幅されていて充実(だから上映時間がさらに長くなってるわけだが)。性的感情を全部ぺらぺら喋ってしまう石坂原作作品――裕ちゃんたら、会って二度目くらいの女に「君が草や土にそうして触っているところを見ると、次は若い男に触りたいんだろうなと思ったんだ」とか言い出すの――では、役者に演技力はいらないわけで、アイドル映画の文法はこうして確立されたことを思い知る。(北原三枝はその点では、もっと大人の女優にみえる。)こんなものを観ているのは、職場で来年出す「日本大衆文化」の論集に一本書いてくれ、と言われて「石坂洋次郎なら」と口走ってしまったせいだ。はたしてわたしはこの後石坂の原作および映画化に付き合い続けるのか? 原稿ができるのが先か、忍耐力が切れるのが先か?

陽のあたる坂道 (角川文庫)

陽のあたる坂道 (角川文庫)