映画で入門 カルチュラル・スタディーズ

会議、新入生オリエンテーション、会議。

映画で入門カルチュラル・スタディーズ

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ご恵贈ありがとうございます。章構成は http://d.hatena.ne.jp/hspstcl/20060403 をご覧あれ。ストーリー紹介と、ここでは「ポイント」と呼ばれている批評部分とが、それぞれいくつかに分けて交互におかれているのが新機軸。本橋さんのストーリーのまとめはほんとうにいつもみごとで、『パッチギ!』とかは、もちろん映画そのもののキメ台詞がうまいからだが、そこ読んでるだけでけっこう泣ける。『ハリー・ポッター』や『ヴェラ・ドレイク』を取り上げていながら、イギリス階級制度についてほとんどなにも言ってないのは、なかばイギリス人とすら言える(永住権ももってたんじゃなかったっけ)テッド本橋氏として、明らかに戦略だろう。いまの日本の学生にイギリスの階級について語っても、他人ごとと受けとられる可能性が高いという見通しだろうか。
教科書の体裁で作られているが、歴史事実や文化的背景はほとんど解説されておらず、各章の Questions の欄に、学生が調べる課題としておかれている。大学の教科書がどうあるべきかは、いろんな考え方があって、いまやっているイギリス文化史教科書の編集過程でも、意見の違いがずいぶん勉強になった。わたしは事実を書きこむことも重要だと思っていたが、言われてみれば、あまり細かいことを書いてもその文章自体は学生のレポートや卒論のモデルとしては不十分で、事実を継ぎ接ぎすれば文章が成立するという風に思わせかねないし、逆に学生のリサーチ力が不十分な場合は、そもそも自分で真似をできると思えないものをいくら読ませてもしょうがないという考えかたがある。「情報を与える」文章と、「学生が自分で書くべきモデルになる」文章というのは、また違うわけで、この本は後者を誘発するように書かれている。こういう仕立ての教科書は比較的珍しいが、逆に使いやすいかも。
不満は、具体的なショットの分析が少なく、映画批評としては物足りないところ。それから『JSA』の章が、ロッテのチョコパイについてまったく触れてないのには激烈に文句をつけたい。健康おたくの本橋さんは、スナック菓子を全然食っとらんのではないか。