Stagecoach

犬のお散歩デビュー。

John Ford's Stagecoach (Cambridge Film Handbooks)

John Ford's Stagecoach (Cambridge Film Handbooks)

Thomas Schatz, Charles J. Maland ら、かなり大物が並ぶ論集で、じつにバランスよく目配りされた文章が並ぶ。全六章のテーマはそれぞれ、ウェスタン・ジャンル、脚本のダドリー・ニコルズ、1939年時点での受容、人種、階級とジェンダー、最後に William Rothman が、娼婦ダラス(クレア・トレヴァー)と士官夫人ルーシー(ルイーズ・プラット)の目線の交錯を詳しく論じていて、これがいちばん面白かった。ダラスは町の道徳派から追い出され、駅馬車内ではルーシーだけが「レディ」として扱われるのだが、視線の交錯を追っていくと、ルーシー本人は最初からある程度ダラスと通じ合うものがあるのだという。
Maland によるニコルズの章を読むと、1960年代と70年代にアンドリュー・サリスなどがアメリカに作家主義を持ち込んで、あからさまな政治的映画を重要視しなくなり、それがニコルズの死(1960)後の評価を低めたとある。日本でも聞いたような話だ。ニコルズはSWG(脚本家組合)の指導者だったし、1944年にはハリウッド自由世界連合というリベラル団体の議長だった。『駅馬車』の階級モチーフには彼の意向がかなり出ている。しかもジョン・フォード自身がこの時期身内に「俺はデモクラティック・ソーシャリストだ」などといい、37年にはスペイン人民戦線政府の病院車に1000ドル寄付している。この時期には『怒りの葡萄』も撮ってるわけだから驚くべきではないだろうが、戦後はタカ派のイメージが強い人でも、30年代後半には違った語り方をしていた、ということ。