老ヴォールの惑星

いずれも強い心を描いた四篇。人間性地球外生物も含めて)への信頼感と率直さは、ほんとうに五十年代SF的で、若い読者に薦めたい。「ギャルナフカの迷宮」は、政治犯が送られる地下迷宮が舞台。囚人一人一人に一人分の餌場、さらに離れた場所に水場が与えられるが、いずれも一人分以上はなく、互いに互いを敵として生きている原ホッブズ的状態から、どう社会が立ち上がるかが描かれる。「漂った男」では、ただひたすらに単調な、しかし豊富な栄養物を含んだ海が続く星に一人不時着した男が、通信機だけを相手に過ごす年月(この海、温度・栄養価とも完璧で、死ねないのだ!)。いずれも、それぞれの世界の細かなディテールが魅力だが、それが人間ドラマのために若干ご都合主義的に奉仕している感じはある。感動的なのはまちがいないけど。表題作は、恒星に近い超高温・高密度の木星型惑星で、電離水素の嵐のなかを浮遊する、珪素と金属繊維からなる知的種族の、未来と外宇宙への思いを描くもの。これがいちばん、ガジェットの魅力のほうが強く出た名作かと。