夫が多すぎて

いまさらながら伊坂幸太郎アヒルと鴨のコインロッカー (ミステリ・フロンティア)』(東京創元社、2003)。『広辞苑』を本屋から盗みたいから、店員が逃げないようにそのあいだモデルガンを抱えて裏口を見張っててくれ、というわけのわからない頼みを隣人からされる、という謎の提示はもちろん、ドルジのしだいにうまくなっていく日本語のさばきかたも、二年前と現在を交互に語る構成の堅牢さも、さすがでした。語学教育に関心のある方が読んでも面白いのかも。

夫が多すぎて (岩波文庫)

夫が多すぎて (岩波文庫)

原作1919。死んだと思っていた夫がじつは捕虜収容所で記憶喪失にかかっていて、突然三年ぶりに戻ってくる。二人の夫を前にした妻が、じゃあ悩むのかというと全然悩まず、さっそくハッピーな離婚に突き進むのが笑える。たいへんにお軽い。婚姻法が80年ぶりに改正されて、離婚がもっと簡単になるのは1937年(いわゆる Herbert Act)。ここではそれ以前、離婚を勝ち取るためのあれこれの手管が披露されている。注がたいへんに綿密で、ありがたい。