影のオンブリア

会議、英語の成績考査。職場の紀要に載せるため、秋に口頭発表したサウスケンジントンについての文章を書き直す。とても論文と呼べる代物ではないが、なにしろスタッフ十三人の学科で出している雑誌なので、二年に一度くらいは書かないと本が成立しないし、他のものを準備している時間もない。三分の一程度進む。

影のオンブリア (ハヤカワFT)

影のオンブリア (ハヤカワFT)

都の地上を統べる老女と、地下というか、重なり合った影の世界に住まう女魔法使い。二人が協力関係なのか敵対関係なのかもよくわからない、曖昧模糊とした権謀術数の世界を、幼い跡取り太子、先代の大公の妾妃、その大公の甥にあたる私生児の画家、自分を魔法でできた「蝋人形」と認識する魔法使いの使い女、などが漂う。血のつながらない親子的愛とか、魔法による呼び出しとか、過去作品に通じるテーマも散見するが、全体に奇妙なまでに実在感がない。人物が空間的にはけっこう激しく移動する割に、物語が進んでいるのかどうかもよくわからないという状態が続く。画家は、都のいかがわしい一帯をさまよっては描き続ける男。そこになにを求めているのか、自分でもわからないままに。終盤を除けば、その先行きの見えなさ自体の雰囲気に浸るべき……というわけで、忙しいときに読む本じゃありませんでした。