ミステリ文庫+文学理論試験

東京創元社社長にしてミステリ研究者、戸川安宣さんにお話をうかがう。戸川さんの蔵書が職場の図書館に寄贈され、それを機会に職場でミステリ論の論集を出そう、ということになったのだ。五万冊の蔵書を引き受けるわけだし、地方の博物館などに勝ってうちを選んでいただいたのはアクセスしやすいためなのだから、カタログや学外者への公開については、今後ちゃんとしないといけません。論集では、わたしはこのままいくとオースティン・フリーマンに取り組むことになるか。吉祥寺中道通のミステリ専門書店、Trick+Trap http://www7.plala.or.jp/trick-trap/ は、現在改装中だが、今後は戸川さんも中心で関わることになるのだそう。
学生から質問メールが次々と届く。文学理論の試験はいつも、あらかじめ問題を公表し、学生が作った答案をメールで送ってきたら少し助言することにしているからだ。もちろん模範解答を教えるわけではなく、足りないところや矛盾点を指摘する程度。可能性としては、わたしが褒めた答案が出回って丸写しの高得点者が続出、ということもありえるわけだが、わたしの職場には、そこまで気前のいい優等生も、そこまで好成績にこだわる雰囲気もどうやらない。今回、「ラカン現実界想像界象徴界は、恋愛やセックスの局面でそれぞれどんなかたちで現れますか」という問題を出した。チェックしていて面白い(といってはいけないのか)のは、自分が言ったことや参考書に書いてあることが、単純化されたり微妙に誤解されたりするときの動き方だ。とくに面白いものの抜粋。
象徴界は、恋愛の型、様式にあたる。『今日からつき合いましょう』というように、ことばで説明できるもので、付き合い始めや別れのときにとくに現われる、形式的な部分である。人を好きになるときに、第二の段階である想像界が現われる。言葉にならない感情や無意識に感じているものの世界である。恋愛をし、相手に対して性的欲求を抱きはじめるのが現実界の現れである。現実界は本能の世界である」
そうか、恋愛は幻想や欲動なしに象徴的コミュニケーションから始まるのか。新鮮。