ベルカ

ベルカ、吠えないのか?

ベルカ、吠えないのか?

犬は王族に似ている。血のつながりが、国民国家の枠に縛られないからだ。正しい血筋を引くことは、きまった国家への忠誠に縛られない。もちろん犬たちは、その都度自分にとっての力に忠誠を誓い、その真摯さは人間の傭兵などとは比較にならない。高貴な血は、状況に応じて冷戦の左側にも右側にもつく。その真摯さは、あくまで歴史の偶然によって構成されていることを、この小説の神の視点の語り手はよくわかっているから、価値判断をしようとはしない。そのたびに、犬に向かって立ち位置を聞いてみるのである。そして答えは返ってこない。あるのは生きること、喰らうこと、そのために必要なら殺すこと、への意志だけだ。傑作。