魂、それはあらゆる毒のなかでもっとも強力なものだ

id:zappa さんから、パラグラフ・ライティングとその教え方の基礎を教わる。ほんとにどうも助かります。

Contagion: Sexuality, Disease, and Death in German Idealism and Romanticism (Studies in Continental Thought)

Contagion: Sexuality, Disease, and Death in German Idealism and Romanticism (Studies in Continental Thought)

英語圏の代表的ニーチェ研究者が、ノヴァーリスの哲学・思想ノート(1798-1800)、シェリング『自然哲学体系草案序論』(1799)、ヘーゲルのイェーナ実在哲学講義(1805-06)を論じたもの。この三人が語る自然の「恐ろしい力」dire force に注目して、存在の根源に「病」とセクシュアリティを見ようとする試みで、レオ・ベルサーニ田崎英明の方向性に近い。
ノヴァーリスの「毒の詩学」――生きることは外部に、したがって毒にさらされることであり、病はつねに生とともにある――や「感染=接触なき触れること」touching without contact という概念がとくに面白い。シェリングの章では、彼の哲学の基本をなす「二にして一」、性交と再生産という、二つが合わさって根源的な一をなす発想がくりかえし語られる。ジジェクならこうした二重性をあくまで主体内部の分裂として語るのだが、クレルのははるかに外部に、性的な対象に開かれた姿勢だ。シェリングらに比べればヘーゲルはずっと「一」の思想家、自然を支配する精神の思想家であるわけだが、彼の自然哲学、とくに生命の根源としての海を論ずる部分や、動物の外的志向性を論ずる部分に、そこからずれていくものを読みとろうということのよう。
とまあ、わかってるようなことを書いたが、ヘーゲルはむろん、ノヴァーリスの引用もえらい難解で参る。ノヴァーリスのテクストの英訳はないが、日本語訳はある程度あるようだから、ちょっと見てみるか。いまのところはあくまで抽象的にインスパイアされるという読み方しかできない。あと、スコットランドの医師ジョン・ブラウンの生理学論、とくにその感受性=受動性 sensibility と刺激感応性=能動性 irritablity、その二つを併せたものとしての excitability(訳せません)といった概念が、ドイツ・ロマン派にここまで浸透していたのは初めて知った。