不機嫌なメアリー・ポピンズ

成城で特殊講義、『カッコーの巣の上で』。英文購読、レポートを集める。期末試験作成。
   不機嫌なメアリー・ポピンズ―イギリス小説と映画から読む「階級」 (平凡社新書)
新井潤美『不機嫌なメアリー・ポピンズ――イギリス小説と映画から読む「階級」』(平凡社新書、2005)。もともと平凡社『月間百科』に連載されたこともあって、歴史的検証は前著『階級にとりつかれた人びと』ほどではなく、メジャーな作品の解説が中心。とくに『ブリジット・ジョーンズ』やアイヴォリーもの、『ハリー・ポッター』など、アメリカ資本映画が、イギリスの階級別アクセントをどう処理しているかがよくわかる。『眺めのいい部屋』『コレクター』の分析がとくに面白かった。
『メアリー・ポピンズ』で気になるのは、ガヴァネスとナニーの違いか。『ジェイン・エア』論でしばしば強調されるように、ガヴァネスは行儀作法を教えるので、自分は被雇用者であっても、上流(アッパーミドル以上)の出身でなくてはならないし、その階級の精神を保たねばならない。自分を人間だと思っているアンドロイドのような立場だ。いっぽうナニーは子ども相手だから、べつに自分自身が上流でなくてもいい。しかしメアリー・ポピンズには、はっきりと「貴族的」な部分があり、同時にマッチ売りの彼氏と会うときには、露骨に労働者的な英語を話したりもする。これは、子どもが(全能みたいにみえる)ナニーに対してもつ畏怖の思いとからんでるわけだが、この曖昧さの魅力については色々といえそうな気がする。本のタイトルを見たときには、そのうち『メアリー・ポピンズ』論を書くという人生の予定は打ち砕かれた――階級論で新井さんにかなうはずがない――と思ったが、短いものだったので、ほっとしました。