Up from Zero

Up from Zero: Politics, Architecture, and the Rebuilding of New York   Imagining Ground Zero: The Official and Unofficial Proposals for the World Trade Center Site (Architectural Record Book)

Paul Goldberger, Up from Zero: Politics, Architecture, and the Rebuilding of New York (Random House 2004)。グラウンド・ゼロ後の建設計画を追ってとてもリーダブルな名著。これと美本 Imagining Ground Zero: Official and Unofficial Proposals for the World Trade Center Site を併せて、なんとか授業ができる程度のことはわかった。パタキ州知事、Port Authority(ニューヨーク/ニュージャージー港湾管理局――国際貿易センターはここの管理下にあった)、新しく作られたLMDC(ロウアー・マンハッタン開発事業)、デベロッパーのラリー・シルヴァースタインといった複数のパワーの絡み合いがもうなにがなんだか。LMDCの主導者である都市計画学者のアレクザンダー・ガーヴィンが言うとおり、都市計画にはあらゆる要素、あらゆる政治権力が入ってくることが具体的にわかる。この主人公のない群像劇の山場は、2002年7月の市民公聴会。主催者側が予想した人数をはるかに超えた五千人の市民が、ああだこうだと言い合うさまを見て、ガーヴィンは希望で胸が一杯になったという。

といってもそのまま民主主義的に都市計画が進むはずはなく、話が具体的になってくる後半は、ますます百鬼夜行じみてくる。後半いちばん多く顔を出すのはもちろんマスター・プランナーのダニエル・リベスキンドなのだが、とくにPort Authorityとシルヴァースタインとの関係で、オリジナル・プランは次々と妥協を迫られていく。これ、リベスキンドの側から見れば「天才のヴィジョンが圧殺されていく」物語になりえるわけだが、そういう感傷に堕ちないところがこの本の良さだし、そうした書き方は流行らないという以上にウソだろう。リベスキンド自身はすごくセンチメンタルな煽りのうまい人で、一種のポピュリストだ。コンペで語るのも、自分が移民としてNYにやってきた初日の思い出と、自由の女神の賛美というベタぶりである。かつてはこうして集合意識を代弁する建築家が、パトロンのもとにやりたいようにやれただろうし、いまでも場合によってはありうるのかもしれない。だが、グラウンド・ゼロはあまりに巨大なプロジェクトだし、リベスキンドが代弁しているニューヨークの民衆は、実際に公聴会で声を上げる、自分の声をもった存在でもある。ポピュリストが「見えない大衆」の名に全権をふるうわけにはいかない以上、無数の思惑が絡む、誰もすべてをコントロールできない共同制作としてしか、話は進まない。リベスキンドはマスター・プランナーでしかなく、自由の塔もメモリアルも、個々の部分についてはまたコンペが繰り返され、べつの建築家が呼ばれる。クリエイターもデベロッパーも、たぶん誰一人十分に満足できる仕事にはならないのだろうが……。

個人的には、メイヤー、アイゼンマン、グワスミー&ホールの格子型ビルが好きです。