アメリカという記憶

新学期。卒論オリエンテーションその他。馬術部が新入部員獲得の最終兵器としてキャンパス内に投入した白馬を撫でる。
アメリカという記憶―ベトナム戦争、エイズ、記念碑的表象
マリタ・スターケン『アメリカという記憶――ベトナム戦争エイズ、記念碑的表象』(岩崎稔・杉山茂・千田有紀高橋明史・平山陽洋訳、未来社、2004)。訳者の顔ぶれから、もっとナショナル・メモリー批判的なものかと思ったが、そうでもなく、むしろ下からの民衆的記憶の構築が主題。エイズ・キルト・プロジェクトを論じた部分がとてもとても有用で、これでもっと写真があれば……。ワシントンのベトナム戦没者記念碑で、マヤ・リンというアジア女性が設計した抽象的な「壁」と、それを批判して作られたフレデリック・ハートの写実的な男性兵像が対比されている。ハートは帰還兵と飲み明かしたことを誇り、リンのモダン・アートはニヒリスティックで、男の世界がわかってないとくさしているわけだ。やれやれだが、「記憶」はリアリスティックなイメージで作られるとは限らないというのが、本書の大きな主張だ。免疫システムがもつ記憶の作用をメタフォリカルに論じた第七章は、言説史というわけでもないすごく不思議な文章で、丁寧に読むともっと面白いのかもしれないが、授業の予習に慌しく読んでいるだけなのでそこまでつきあえない。どうも講義の準備を始めると、いつにも増して本の読み方が殺伐としてくる。