空間のイギリス史

空間のイギリス史
川北稔・藤川隆男編『空間のイギリス史』(山川出版社、2005)。ロングセラーの『路地裏の大英帝国』と似た作り。ただし川北大先生の阪大退官記念論集であり、こういうものの常として縁とゆかりのある人間はたくさんいるから書き手は増え、しかし出版社はあまり厚い本を出したくなかったのだろう、一編一編がすごく短い。あれ、もう終わっちゃったの、という印象が続く。とはいえ有益な情報は満載。1874年創設の「女学校長協会」、とくにその「植民地委員会」で活躍したサラ・バーストールに焦点をあてた堀内論文、1887年マンチェスターのジュビリー博覧会でおこなわれた「いにしえのマンチェスターとソルフォード」の街並み復活展による、郷土意識の高まりを紹介する川本論文など、ネタに使えそう。

個人的にいちばん面白かったのは坂本論文。十八世紀の英国国債がせいぜい二十名程度のブローカーによってまず買われ、それから個人投資家に切り売りされていたこと、そしてこのブローカーたちの多くは、呆れたことにオランダのユダヤ人だったりユグノーだったりしたことがわかる。国債は最初からインターナショナルだったわけだが、いわれてみれば近世初期の国王とかはみんな国外から借金をしているわけで、驚くべきことではないのだろう。国債のほぼすべてが直接自国民によって買われているいまの日本のほうが、歴史的には例外なのかも。