天唄歌い

成城で特殊講義。成城学園駅ビルが完成、といっても今日は関係者・招待者向けのお披露目日で、一般人は入れないのだった。駒場のコプチェク・セミナーの原稿翻訳、といってもまだ完成原稿ではなく、N氏、S氏と三分割してなので、あまり量はない。

天唄歌い

天唄歌い

坂東版『ブーガンヴィル航海記補遺』。鎖国に入ったばかりの頃の江戸時代。薩摩藩の通詞が難破の末流れ着いた南の島は、まさにブーガンヴィルが見たタヒチのような孤立した、果物と貝を拾えば生きていける性的楽園だ。時間の存在しないこの島に流れ着いて「犬」として可愛がられている各地の男たち――薩摩、土佐、琉球、上方、唐、南蛮――の、出自もそれぞれ異なる男たちは、それぞれのやり方でこの島に反応していく。いちばんの儲け役は、切支丹の家に生まれ、父を火炙りで失っていまは仏門に入っている若い僧侶。彼と、倭で布教を続けてきたスペイン人神父との対話なども読ませる。島の巫女役(天唄歌い)の後継者である少女の視点から書かれた部分も多いが、焦点はやはり、いろんな過去や立場をもった男たちが島に対してどう対応していくか、のほうだろう。交通の場としての十七世紀南洋の物語として読んでもいいかも。