ダーウィンの時代 科学と宗教

非常勤1コマ。サイード翻訳校正。

ダーウィンの時代―科学と宗教

ダーウィンの時代―科学と宗教

以前読んだはずなんだが、大枠以外は案の定忘れていて発見多し。ロバート・チェンバースの『創造の自然史の痕跡』(1844)とか、ブリッジウォーター論集(1833-36)――当時の護キリスト教科学の最高峰――の一々について概略が読めてほんとうに役に立つ。
とくにライエルの地質学をひじょうに低く評価し、たいしてバックランドを高く評価しているところが注目。ライエルは、いまでも一般書や文化史では「イギリス地質学の父」といった扱いをされていることが多いが、実際はライエルは地球の気候変化も生物の進化も認めず、ただ安定性と定常性だけを強調した人であって、当時としてもむしろ異端、地質学の主流に大きな影響を及ぼすことはなかったのだという。宗教vs科学という対抗論の枠組みでライエルは評価されてきたが、ライエルの定常説も同じくらい神学的だし、他の地質学者が実証的でなかったわけではないのだ。ただ「ライエル神話」は二十世紀の科学史研究が作ったものではなく、すでに1833年のブリタニカにもそれがうかがえるという。実際、ダーウィンの自伝とかギッシングとかも、ライエルを転換点とする物語の上にのっている。こうなると話は、専門の地質学の領域での意味と、それが他の分野に及ぼした影響力との落差、ということになってくる。『地質学原理』(1830-33)は、むしろ分野外の読者への教科書として力をふるった、ということか。こういう落差の研究ってやれば面白いんだろうが、それこそ専門技能のいる仕事だなあ。