Havelock Ellis

肩痛し。学会準備会議@渋谷。これでなんとかなるかなあ。
Phillis Grosskurth, Havelock Ellis (New York UP 1985)。これまで書かれたもっとも浩瀚な伝記だと思うが、ハヴロック・エリスという人がわたしにとってわかりにくいのは相変わらず。まず、徒党を組まず、フェビアン主義者たちとも、性心理学協会の活動とも(自分が創始者ではあるが)距離をとっているので、時代の流れに組み込みづらい。セックスについて正面から語ったという点では「ラディカル」だが、政治的にはまったくのノンポリだと思うし、いろんな意味でヴィクトリア朝的体面を気にする人でもあった。それにつかみづらいセクシュアリティ
この伝記は、オリーヴ・シュライナー、妻エディス、マーガレット・サンガー、後の愛人フランソワーズ・ラフィットなどの女性たちとの関係について、ひじょうに詳しい。女性の排尿を見て興奮するという彼の嗜好はさておいても、フランソワーズ以外とは通常の性関係をもたなかったようにみえる。彼は若い頃に、ジェームズ・ヒントン(1822-1875)の自由結婚思想――恋人どうしは自由であるべし、それこそ至高の愛であるべし――の影響をうけているのだが、自分は通常の意味では性的放縦とは遠い。多くの人が、彼はあまりに純で、性的経験がほとんどないのではないかという印象をうけたと語っているし、エリスのもっとも強い衝動は、女性とのセックスではなく女性との友情に向いている、などという声もあった。
いっぽう彼は人並みの嫉妬心を持ち合わせてもいた。フランソワーズは、やはりヒントンの弟子だった若いヒュー・ド・セリンコートに奪われるのだが、この三角関係は、ありきたりのメロドラマという感じがする。またエディスはレズビアンで、エリスがそれを結婚前に知っていたかどうかは定かでないが、妻の恋愛関係に落ち着かない感情をもっていたことはうかがえる。しかし彼の『性心理学研究』第一巻『性的倒錯』の多くは、妻と恋人たちの取材をもとに書かれた。精神的に不安定だった彼女が亡くなった(1916)後に書かれたこともあって、エリスの『自伝』は、妻に対する大仰な賞賛のことばで埋め尽くされており、読むに堪えない。彼のなかには、性を率直に「科学的に」――医学的にというより人類学的に――捉えようとする面と、理想的な自由な恋愛・信頼関係を賛美するロマンティシズムがつねに同居していて、解きほぐしが厄介だ。