阿佐ヶ谷ベーグル

阿佐ヶ谷ブオーノイタリアでオリーヴ油。手抜き料理のポイントは調味料には金を惜しまないことだ。青梅街道南の「ベーグル」でセサミ+クリームチーズなど。阿佐ヶ谷団地の中を歩きながら食べる。ぱりっとした皮に、半個食べると顎が疲れるこの噛みごたえ、これですよこれ。日本で、というよりニューヨーク州以外で食べたベスト・ベーグルに認定。
ベーグルも一頃のブームが去ったらしく、いつのまにかリトルトライベッカ・デリも潰れている。いいものを作ろうとすると割高になりがちだし、かといって手を抜くと他のパンと差別化できない。阿佐ヶ谷ベーグルはこれを120円で出しているが、都心や駅近くではそうもいかないだろう。地価の高いところで専門店としてやっていくためにはカフェ化して値段を上げないといけないが、それはそれでベーグルだけだと飽きられやすく、経営はいかにも難しそうだ。パン屋のメニューの一部として、ややうやむやに定着していくしかないのだろうか。
わたしがベーグルにとりつかれたのはコーネルの三週間のサマー・セミナーに行ったとき。コーネル大の正門前には「カレッジタウン・ベーグル」という店があり、毎日毎日ランチをここで食べ続け(おもにトマトのベーグル+クリームチーズか、セサミないしエッグ+チキンサラダカイワレ抜き)、店のテレビでサッカーを観た。フランス・ワールドカップの年だ。ベーグルってなんていいものだろう、と心にハートマークをつけたまま、その年住んでいたカリフォルニアの家に戻り、いさんで地元の大手「ノアのニューヨーク・ベーグル」で買ってみて、イサカで食べ倒したものとのあまりの落差――香川のうどんと、東京の蕎麦屋のうどんくらい違う――に愕然としたものだ。それ以来、まわりの東部出身のユダヤ人に「この辺でうまいベーグルは食えないのか」と聞いて回ったが、みな一様に「西海岸にまともなベーグルはない」と答えるのだった。わたしにとって、アメリカの東と西の違いは、まずベーグルの違いだ。ベーグルは、東部の「古いアメリカ文化」の味がする、ような気がする。
三、四年のレポート数本。ゼミの予定表書き。