アジアの岸辺
- 作者: トマス・M.ディッシュ,若島正,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2004/12/01
- メディア: 単行本
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表題作はボウルズを思わせる主流文学的な傑作で、イスタンブールの都市論でもある。主人公の建築家は、いっさいの様式や慣習を捨てて建築を、街を見ようとしている。見慣れた形状の世界を「自由で恣意的な選択が無限に続くものとして見るように、目を鍛えること」(p.125)。圧倒的な人工性、しかもそこに一切の背景をもたない構築物として都市を見ようとするこの男は、自分がやがてその構築(しかし、誰の作ったものなのだろう?)のなかに、自分の過去の背景とは無関係に組みこまれていることに気づく。こうしてみるとこれ、オリエンタルな雰囲気で書かれた、量子力学的認識論(イーガンの『宇宙消失』のような)なのかもしれない。しかも自分が実験者だと思っていたら、シュレディンガーの猫のほうだった、というような。