サラダホープ

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血圧が高い。夜中に、富しげ「こだわりの柿ピー」だの岩塚「鬼ひび」だのを食いながら酒を飲むという生活をあらためるべきなのだが、そう簡単にはいかない。わたしの父は、新潟で菓子の中卸会社の営業を長年勤めた人で、おかき・煎餅の味の判定は、わたしが父から学んで血肉となった、ほとんど唯一のものだ。二人とも岩塚製菓を高く評価し、亀田製菓については、一歩引いた、コンピュータ関係者がウインドウズOSに対するような態度をとっている。とはいえ、亀田の「サラダホープ」を、できれば二十年前に味の変わったときより以前の、形の不揃いのやつをいまも食べたい……といっても、わからない人が多いんだよな。
サラダホープは、亀田をここまで押し上げた大ロングセラーで、かつては新潟ではバーのつまみといえば柿ピーでなくこれ、というほどの支配力を誇った。形状的には「ハッピーターン」を小さくし、味は「霧木立サラダ」を柔らかくして胡椒をきかせたようなもの。父によれば、柿の種をふくらませたものを作ろうとして、開発担当者が醤油を入れ忘れ、塩をかけたらうまかったのでそのまま商品化した、とのことだが、父は興にのるとうろおぼえのことを断言する点わたしにそっくりなので、真偽は定かでない。とにかくこれはわたしの味覚の根源を作っているといってよいほどのものだが、関東ではついぞ見かけない。大学入学後のわたしは、実家に戻るたびに腹も減っていないのにサラダホープを買い求め、家族が寝静まってからボリボリと一袋齧りたおすという、サラダ味おかき餓鬼道に堕ちてしまった。そう、ふだん買えないという事実が、わたしの渇きをいやまし、他のおかきへと走らせ、血圧上昇の深層をなしているのだ、いやもう、間違いない。そうに決まっている。
というわけで亀田製菓さん、サラダホープの関東進出、いまいちど取り組んでいただけないでしょうか。わたしの健康のためにも。