It Should Happen to You

It Should Happen to You (コロンビア1954、ジョージ・キューカー)。NYに出てきて、有名になるのが夢の普通の女の子にジュディ・ホリデイ。考えをまとめるときは靴を脱ぐ、というのが小ネタ。頑張って貯めた1000ドルで、コロンバス・サークルの大看板を借りて自分の名前をでっかく書いてもらうと、それが評判になってほんとうに有名人に……。彼氏のドキュメンタリー・カメラマンに若いジャック・レモンチンパンジーの目線のショットを撮るために動物園の檻に入って観客に向かいサル真似をする場面あり。二人の住むアパートの廊下の奥行きがよい。ホリデイを「ふつうのアメリカン・ガール」として売りこむ石鹸会社の専務にピーター・ローフォード。ローフォードの車に乗って、自分の名前が書かれた看板の周りをなんどもなんども回るシーンのパンの開放感がすばらしい。ネタからいってもウォーホール的で、テレビのトークショーとか、レモンの作るプライヴェート・フィルムとか、ハリウッドに対抗する新しい映像メディアがふんだんに織りこまれている。
黄金時代のスクリューボール・コメディは、根本的に上流社会的だ。「ウィットに富んだ会話」というやつがその階級のものだと捉えられた上に、キャサリン・ヘップバーンという女優の個性がその傾向を増幅させている。ホリデイは、労働者階級の女の子としてジャンルを刷新したわけで、彼女の物覚えの悪いお馬鹿ふしぎちゃんぶりが魅力。人によっては階級の描き方として不快に感じるかもしれない。レモンが残した別れのフィルムを、彼の指示通りに見るためにブラインドを下ろし、ただそうすると指示書きの次の部分が読めないのでそっとブラインドを上げてみる、という名場面あり。