Behind the Gates

翻訳、学会通信業務。「英文学東京若手の会」という会だが、事務担当者の目から見てもうさんくさい名称だと思う。

テレビで道場六三郎が、四十年前から通っている銀座の昔ながらのラーメンがどうとか言っているので、昨日買った『東京風物名物誌』をさっそく開いてみて、この本には中華料理店の記述が一切ないことに気づく。存在していないはずはないから、著者個人の方針か、昭和二六年当時の中華料理の地位を伝えているものか、どちらかということになる。さてどっちだ。

Behind the Gates: Life, Security, and the Pursuit of Happiness in Fortress America

Behind the Gates: Life, Security, and the Pursuit of Happiness in Fortress America

おもにテキサスとニューヨーク州ゲーテッド・コミュニティに暮らす住人への大量のインタヴューをまとめ、分析したもの。メキシコシティやLAの取材もあり。日本でこのテーマだと、マイク・デイヴィス系のものものしい「要塞」の印象が強いが、ここに登場するのはとくにセキュリティに神経質というわけでもない、いたって「ふつう」の中産階級だ。そもそも塀くらいでたいした防犯になるわけでもない。『ゲーテッド・コミュニティ―米国の要塞都市』でも、ゲートのあるなしは不動産価格にほとんど影響を及ぼさないと指摘されていた。まあセールスマンの撃退にはなるだろうが……。

むしろ多くの人が語るのは、自分が子どもの頃に経験した、ご近所の緊密な「コミュニティ」の感覚を取り戻したいという思いだ。そしてその思いは往々にしてかなえられない。同じ塀のなかにいるからといって、仲良くなれるとは限らない。夏は共有プールで出会っても、シーズンが終わればそれっきりだ。ここにあるのは、かつてはブルックリンや(著者が子ども時代を過ごした)UCLA周辺のような、「都市部」にあったコミュニティの感覚を、郊外で人工的に再生させようという欲望である。この本にはだから、いわばいままで存在したことのないものに対するノスタルジーの感覚が、濃厚に漂っている。